近年、日本の稲作で避けて通れないテーマになっているのが「高温対策」です。
特にここ東海地方でも、夏の暑さが年々厳しさを増し、登熟期の高温による品質低下(白未熟粒の増加)が、玄米等級や精米歩留まりに大きな影響を与えるようになっています。
前回の「よみもの」では、愛知県の高温耐性品種として注目される「あいちのこころ」について取り上げました。
そして今回はその続編として、全国で急速に評価を高め、導入が進んでいる品種──「にじのきらめき」をテーマに掘り下げます。
にじのきらめきは単なる“暑さに強い品種”という枠に収まらず、今の稲作現場が求める条件を高いレベルで満たした、次世代型のうるち米です。
今年も「極端な気候」になる可能性──スーパーエルニーニョと高温リスク
ここ数年、気候は明らかに不安定になっています。
特に近年は「猛暑」が当たり前になり、夏の高温が一過性ではなく、稲作における恒常的なリスクになりつつあります。
さらに今年は、スーパーエルニーニョ現象の発生可能性が話題となり、初夏から晩秋まで高温傾向が強まることへの警戒感が高まっています。
重要なのは、単に暑いというだけでなく、気候が“極端化”していることです。
気温のピークが上がり、暑い日が長く続き、登熟期に高温が重なる確率が増える──これが今の稲作の現実です。
こうした状況では、従来の「暑さ対策」だけでは追いつかず、品種選択そのものが稲作戦略の中心になっていきます。
高温で品質が落ちる本当の理由──登熟期の“穂温”が鍵
高温による品質低下が起きやすいのは、出穂(しゅっすい: 葉に包まれていた穂が、外に顔を出し始めること)後の登熟期(お米が発育、肥大する時期)です。
登熟期に気温が高い状態が続くと、玄米内部に十分にデンプンが詰まりきらず、粒が白く濁る「白未熟粒」が増える傾向があります。
白未熟粒が増えれば、玄米の外観品質が低下し、一等米比率が下がる原因になります。
つまり、猛暑年の登熟期は「品質の分かれ道」です。
そして近年注目されているのが、気温そのものだけでなく、穂の温度(穂温)です。
同じ気温でも、穂が直射日光を受け続ければ穂温が上がりやすく、品質低下が進みます。
逆に、穂温が上がりにくい条件なら、品質低下を抑えられる可能性があります。
この“穂温”という視点が、今回紹介する「にじのきらめき」の強みと直結しています。
全国で急速に普及している「にじのきらめき」
近年、日本の稲作では高温耐性品種への切り替えが急速に進んでいます。
普及が進む品種TOP10は、
- 1位:にじのきらめき
- 2位:こしいぶき
- 3位:つや姫
- 4位:とちぎの星
- 5位:ふさこがね
- 6位:天のつぶ
- 7位:きぬむすめ
- 8位:雪若丸
- 9位:新之助
- 10位:あきさかり
その中でも、特に存在感を強めているのが、「農研機構」が育成したにじのきらめきです。
にじのきらめきは、現在うるち米の産地品種銘柄として全国で採用が進み、栽培地域は東北の宮城から九州の熊本まで広範囲に及んでいます。
短期間でここまで広い地域へ普及が進む品種は多くありません。
これは、にじのきらめきが「高温に強い」という一点だけでなく、実需・生産・気候条件の複数の要素が噛み合い、現場で“選ばれる理由”が明確な品種であることを示しています。
にじのきらめきの最大の特徴──“高温回避性(heat avoidance)”という新しい耐性
にじのきらめきが高温に強い理由として、農研機構(NARO)は「高温回避性(heat avoidance)」という視点を示しています。
これは単に高温に耐えるのではなく、高温条件でも穂の温度が上がりにくいことで、登熟期の品質低下を抑える可能性があるという考え方です。
言い換えれば、にじのきらめきは
「暑さに耐える米」ではなく
「そもそも穂が熱くなりにくい米」
である可能性が示唆されています。
この視点は、温暖化が進む現代において非常に合理的で、今後の品種選択を考える上で重要なヒントになります。
なぜ穂温が上がりにくいのか?──草姿がもたらす2つの効果
農研機構の解説では、にじのきらめきの穂温が上がりにくい理由のひとつとして、草姿(稲の姿)が関係している可能性が示されています。
その主な要因として、次の2点が挙げられています。

① 穂が葉に隠れやすく、直射日光を受けにくい
にじのきらめきは、穂が葉の間に包まれるような形になりやすく、穂がむき出しになりにくい傾向があります。
そのため、登熟期の強い日射を直接受けにくくなり、穂の表面温度が上がりにくいと考えられています。
(写真:農研機構より)
② 穂の位置が低く、葉の蒸散による冷却効果を受けやすい
また、穂の高さが比較的低いことも特徴です。
穂の周囲には葉が多く存在するため、葉が水分を放出する「蒸散」による冷却効果が働きやすく、穂温の上昇を抑える方向に作用すると考えられます。
この2つの要素が重なることで、にじのきらめきは高温条件でも穂温が上がりにくく、結果として登熟期の品質低下が抑えられる可能性がある、というのが農研機構の見解です。
これはまさに、温暖化時代の稲作が求める“新しい強さ”と言えるでしょう。
高温でも整粒歩合が維持されるというデータ
高温耐性はイメージで語られることもありますが、にじのきらめきはデータ面でも注目されています。
農研機構の報告では、出穂後20日間の日平均気温が約28℃の高温条件下でも、整粒歩合が70%程度を維持する結果が示されています。
この温度帯は、一般的な品種では白未熟粒が増え、等級低下が起こりやすい条件です。
それでも一定の整粒歩合を確保できる点は、にじのきらめきの高温適応性を裏付ける材料となっています。
にじのきらめきが評価される理由は「高温耐性」だけではない
にじのきらめきが急速に普及している背景には、高温耐性以外の魅力もあります。
● 粒が大きく、炊き上がりの印象が良い
米は食味だけでなく、炊飯後の粒感や見た目の印象も重要です。
にじのきらめきは大粒感があり、見栄えの良さが評価されることが多い品種です。
● 多収性があり、生産者側のメリットが大きい
品質が良くても収量が伸びなければ導入は進みにくいのが現実です。
にじのきらめきは多収性も評価されており、これが普及を加速させている大きな要因と考えられます。
● 高温年でも品質が安定しやすい
そして最大の価値が、やはり高温年でも品質が落ちにくいこと。
高温が常態化する時代において、これは生産者にも実需側にも強い安心材料となります。
高温耐性品種は今後さらに増える
高温耐性品種の流れは、これからさらに加速すると考えられます。
すでに現場で評価されている品種として、
- つや姫
- 雪若丸
- いちほまれ
- しんのすけ
- あきさかり
などがあり、一等比率の高さや品質安定性の面で注目されています。
さらに今後は、佐賀の「ひなたまる」や鹿児島の「あきの舞」など、地域の気候に合わせた新品種も登場してくる見込みです。
温暖化が続く以上、高温耐性品種は“特別な選択肢”ではなく、稲作の中心戦略になっていくでしょう。
まとめ:にじのきらめきは“高温耐性品種の次世代モデル”
今年のように、スーパーエルニーニョの可能性が話題となり、気候が極端化していく状況では、稲作の安定には「品種の力」がますます重要になります。
にじのきらめきは、
- 全国へ急速に普及している
- 高温年でも品質が安定しやすい
- 穂温が上がりにくい「高温回避性」が示唆されている
- 穂が葉に隠れやすく、直射日光を受けにくい
- 穂が低く、葉の蒸散による冷却効果を受けやすい
- 大粒で見栄えが良く、多収性もある
という特徴を持つ、まさに“次世代型の高温耐性品種”です。
高温耐性はもはや「付加価値」ではなく、これからの稲作における標準装備。
品種の選択と、地域の栽培設計がますます重要になる時代に入っています。
次の稲作を考えるうえで、にじのきらめきは間違いなく注目すべき存在と言えるでしょう。
出典(参考資料)
「にじのきらめきの高温回避性(heat avoidance)」「穂温が上がりにくい性質」「穂が葉に隠れることや蒸散による冷却効果」に関する記述は、以下の資料を参照。
- 農研機構(NARO)中日本農業研究センター プレスリリース
「水稲新品種『にじのきらめき』の高温登熟性は穂の温度が上がりにくい“高温回避性”による可能性」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/carc/153330.html

